第1作 | それいけズッコケ三人組 |
基礎データ
初版 | 1978年2月 |
ページ数 | 182(あとがき2含む) |
ジャンル | オムニバス(歴史、ミステリー、ホラー) |
挿絵 | 前川かずお |
あらすじ | オムニバスのため省略 |
章立て(後ろの数字はページ)
1 | 三人組登場 | 8 |
2 | 花山駅の決闘 | 35 |
3 | 怪談ヤナギ池 | 62 |
4 | 立石山城探検記 | 89 |
5 | ゆめのゴールデンクイズ | 138 |
作者からきみたちへのメッセージ
女の子にもてないより、もてたほうがいい。テストでれい点とるより百点のほうがいい。鉄ぼうがにがてより、とくいなほうがいい。 クラスのみんなから、かっこわるいと、いわれるより、かっこいいなあと、いわれたい。 そう思っているきみたちに、この本をおくろう。この物語こそは、男の栄光を求めて生きた、三人の少年の、汗と涙と感動のドラマなのだ。 |
作品鑑賞
・ズッコケシリーズの原点は、作者が田舎の子どもを舞台に書いた「奥畑村のゆかいな仲間」「首なし地蔵の宝」で、それを都会を舞台に移した「ズッコケ三銃士」が「6年の学習」1976年4月号から連載され、好評を博す。そしてタイトルを「(それいけ)ズッコケ三人組」として単行本にまとめられたものが、記念すべき第1作目である。 個々のキャラクターについては、ハチベエのモデルは作者の父親が経営していた書道塾にいた色の黒い落ち着きのない子どもであり、モーちゃんは作者の中学の同級生・笹原孝治(たかじ)氏をモデルに、名前は大学の同級生の奥山三吉(偽名)から取られている。そしてハカセは他でもない作者自身がモデルである。 |
・三人組登場 タイトル通り、三人組が初めて登場するエピソード。毎朝トイレでドリルを解くハカセ、朝一番に学校に来て、ハンドテニスの場所を取ろうとするハチベエ、ほとんど毎日のように遅刻してもクラスから愛されているモーちゃんの、それぞれの個性が短い描写で見事に表現されているすべりだしは、子供たちの心をたちまち掴んでしまったことだろう。 ストーリーとしては、ひとりでトイレにこもって読書をしていたハカセが、二人組の空き巣狙いに入られて、何とか外部に連絡を取ろうと奮闘するもので、特に面白いものではない。ただ、空き巣狙いの兄貴分が何かといえば統計を持ち出したり、ハカセの助けを求める手紙をのんびりと解読するモーちゃん、ハカセが電話帳を一ヶ月かけて読んだ、などの、細かいギャグがちりばめられていて、楽しい。 |
・花山駅の決闘 学校周辺のコミニュティ内で起こる小事件を描いたドラマ。 本屋で万引きしている少女たちを注意したモーちゃんが逆に彼女たちにやっつけられてしまう。相談されたハチベエは力尽くで やり返そうとするが、ハカセの提案で、万引きの現場に居合わせてその邪魔をしようと計画を立てる。 計画は成功するが、その後、不良少女たちとの乱闘になるが、奮闘の末、彼女たちを撃退し、仲間にされそうになっていた可憐 な少女・ミドリを悪の道から助けることに成功。ストーリーは単純だが、事件に対する対応の違いで、三人のキャラクターが改め て浮き彫りになっている。万引きと言う身近な犯罪事件をモチーフにしているのは、実は全50作中、この一篇だけなのが意外で もある。 |
・怪談ヤナギ池 作者の得意かつ好きな怪談物の嚆矢。 ハチベエは怖い話を女子に披露して脅かそうとするが、話術の下手さもあってまるで相手にされない。その小さな恨みを晴らすべく、ハカセ、モーちゃんと一緒に、幽霊の人形を作って彼女たちを怖がらせようと画策する。計画は成功したのだが、物語は意外な結末を迎える。 シリーズのヒロインとも言うべき荒井陽子および榎本由美子が初登場するエピソード。後の作中の荒井陽子とは若干イメージの異なるキャラクター造形がされている。クラスメイトを脅かすためだけに、幽霊の人形を作ったり、タエ子姉さんにまで幽霊の声を吹き込ませたり、悪戯に関しては骨身 を惜しまない三人組の愛すべき行動力が頼もしい。 ヤナギ池の不気味な雰囲気、悪戯が呼び起こす現実の事件、そしてなにより、ラストの捻りが強烈で、作者のホラーテラーとしての才能が光る。 |
・立石山城探検記 これも作者のお好みの歴史モノの走り。社会研究として、ハカセたちは立石山城あとで貝塚や土器の発掘をクラスメイトたちと計画する。ハチベエは女の子が参加すると聞いて半ば強引に調査に同行するものの、地味な発掘作業にすぐ飽きて勝手に探検を始めて、遭難してしまう。遭難と言っても、昔の防空壕の中を少しさまよって、すぐに救出されるだけなので起伏には乏しい。しかし、最後に戦争の影をさ りげなく描いて奥の深い小品に仕上がっている。 天性のおっちょこちょい、かつ楽天家のハチベエ、不人情に見えて、実は友情に厚いハカセの造形など、同じ作品集の中でも既にキャラクターに成長が見られるのが頼もしい。前作に続いて、荒井陽子と榎本由美子が登場。 |
・ゆめのゴールデンクイズ 最後はこれもジャンル分けしにくい素材。タエ子姉さんがモーちゃんの名前で賞金の貰えるクイズ番組に応募したところ、見事当選する。無論、モーちゃんは尻込みするが、強引な姉に逆らえず、しぶしぶ出場することに。しかも賞金の獲得を目指してクイズの猛特訓を受ける羽目になる。ハチベエ、ハカセは、二人が組めばクイズは全問正解できると気付き、トランシーバーを改造して モーちゃんに持たせ、会場にいる二人が答えを教え、賞金を山分けしようと持ちかける。モーちゃんはこれまた強引にその作戦に加わるのだった。 テレビのクイズ番組の賞金が15万円と言うのがいかにも70年代らしい金額。時と場合に応じて不正手段を働いても利得を求めるハカセたちの暴走ぶりも楽しい。クイズの途中で様々な波瀾を持たせたり、最後に意外なオチを用意したり、作者のストーリーテラーとしての才能が改めて浮き彫りになっている。そして、全て終わったあとにハカセとハチベエが自分たちのことを「ズッコケ三人組」と呼ぼうと決めるところで幕。これは雑誌掲載時にはなかった、単行本発刊時に書き加えられた文章だろう。もっとも、 2作目以降、登場人物がその単語を口にすることは一度もない(確か)。 |
・なお、「ズッコケ三人組の大研究2」には、雑誌連載された「ズッコケ三銃士」の最終回(12回)が収録されている。内容は、三人組をモデルにした小説を、近所の作家、那須正幹が雑誌に連載すると言う話を聞いた三人が作者に会い、自分たちの恥部が書かれると落胆するというもの。そして文章は、「6年の学習」掲載の第1回目の冒頭にループすると言う、メタフィクション的な処理で締め括られている。 |
管理人の評価
・第1作にして唯一のオムニバスと言う異色の一冊。それぞれ小品だが、後半に見られる文章の冗漫、弛緩は全く見られず、面白く読める。 | ランクB |