ズッコケ三人組全巻紹介010
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第10作 ズッコケ山賊修業中

基礎データ

初版 1984年12月
ページ数 198(あとがき2含む)
ジャンル SF、アドベンチャー
挿絵 前川かずお
あらすじ 大学生堀口さんの車に乗って山陰地方へ遊びに行った三人組は、山の中で道に迷う。そこへ山賊の格好をしたへんてこな一族が現れ、彼らを拉致してしまう。他郷と隔絶された「くらみ谷」には、何百年も前から独立王国を築いてきた土ぐも一族が住んでいたのだ。ハチベエたちは彼らの仲間としてここで暮らさなくてはならなくなる。彼らは脱出の機会を窺っていたが……。

章立て(後ろの数字はページ)

1 山賊の襲撃 10
2 くらみ谷土ぐも一族 48
3 土ぐも神事 93
4 脱出失敗、そして…… 133
5 さらば、くらみ谷 171

作者からきみたちへのメッセージ

山にいるのが山賊で、海に住むのが海賊。湖に出没するのが湖賊で、金ばかりねらうのは金属。
くつをぬすむのが三足なら、なんどもぬすむのは連続。ズッコケ三人組シリーズを読めば、せなかがゾクゾク。

作品鑑賞

・シリーズ初期の大傑作。自分がベストテンを選べば、必ず入ってくる作品である。土俗SFとスリル満点のアドベンチャーとしての面白さは抜群である。
・冒頭、余計な描写は省いて即座に「土ぐも一族」の登場するところ、読んでいて実に楽しい。これが後期作品になると、1章の終わりになって、やっと彼らが登場するような感じになる。下手をすると、2章の終わりまで引っ張りそうだ。
・そして、日本の山間部の間を地下トンネルでつないだ、巨大な生活圏に、数百年、いや千年前から独自の王国を築いて、営々と子孫を残してきた日本人でありながら、日本人ではない「土ぐも一族」の全体像のもたらす、日常の価値観を吹っ飛ばされそうな衝撃。その設定や描写が極めてリアルなので、絵空事として片付けられない
 独特の迫力が詰まっている。頑なに自分たちの生活スタイルを守り、厳しい掟につながれた彼ら一人一人の描写も巧みで、単にいい奴悪い奴と色分けできない複雑な人間模様が素晴らしい。
・それでいて、ところどころ笑いやホッとできるシーンもぬかりなく置いてあるので、単に怖いだけの小説にはなっていないのが憎いところ。
 また、彼らが日本の僻地の農村と、宗教的な結びつきを持って、日本をじわじわ辺境から侵略して行こうというプロットも、子供の頃に読めば、いや大人が読んでも鳥肌が立つほど、実体的な恐怖を伴って迫ってくる。人々の恨みを受けることで尊崇される存在と言うアイデアもさすがの一言。
・中盤、ハチベエたちが隙を見て逃げ出し、しかしあえなく捕まってしまう辺りのホラー小説もかくやと思える怖さ。初読の時は、ハチベエたちが本当に処刑されるのではないかと本気で心配したほどだ。その後の展開はやや主人公であるハチベエたちに都合が良過ぎる気もするが、彼らが秘密の抜け道を通って、「土ぐも一族」から本当に逃れてローカルバスの座席に落ち着いたときには、まるで自分自身が危機を脱したかのような安堵感を覚えたものだ。
・衝撃的なのが、一緒に拉致された堀口さんが、ハチベエたちと一緒に逃げず、そのまま「くらみ谷」に残ってしまうラスト。子供の頃は、無論、20代前半の大学生の心情などは、忖度できなかったが、今になって読むと、堀口さんの心情が痛いほど分かる。
 ハカセが「くらみ谷」について思いを馳せ、「お恨み申す〜」とつぶやくクロージングは、初読から何年経っても刻印のような強烈な印象を胸に残す名文だ。
・信じがたいことに、この大傑作の後日談を、エイジシリーズで描いているらしい。まだ読んだことはないのだが、正直、読みたくない。いや、内容を知りたい気持ちはあるのだが。まあ、
 それはひとつの可能性、この作品とは切り離して読めばそれほど気にならないかもしれない。

管理人の評価

・シリーズの最高傑作と呼んでもいいくらい。ただ、設定が設定なので、三人組以外のレギュラーキャラが一切登場しない点が物足りないと言えば言える。 ランクS