第11作 | 花のズッコケ児童会長 |
基礎データ
初版 | 1985年6月 |
ページ数 | 222(あとがき2含む) |
ジャンル | 学校行事 |
挿絵 | 前川かずお |
あらすじ | ハチベエが柄にもなく児童会長選挙に関心を示し、自分のクラスの荒井陽子を口説いて半ば強引に立候補させようとする。 選挙運動前に、ハカセの智恵で陽子のファンクラブを作って名前を売り込んでいたが、その行き過ぎた手法を宅和先生に叱られたことから、陽子は立候補はしないと断言。因縁のある4組の津久田の当選をどうしても阻止したいハチベエは、窮余の一策、自分自身で立候補することに…… |
章立て(後ろの数字はページ)
1 | ハチベエのひみつ | 10 |
2 | I Love ヨーコ! | 56 |
3 | 選挙違反続発す | 103 |
4 | ああ、児童会長 | 164 |
作者からきみたちへのメッセージ
“ずっこける”ということばは、江戸時代の洒落本(娯楽小説)にも登場する、ゆいしょ正しい日本語なのだ。さいしょの意味は、ひもがゆるんだり、 ずり落ちそうな状態をあらわすことばだったが、転じてまとはずれなことをする、とんまな行動をとることを意味するようになったのである。 ズッコケ三人組シリーズの読者よ。作者は題名ひとつ考えるにも、いろいろ研究しておるのだよ。 |
作品鑑賞
・児童会長の選挙と言う、学校行事を真正面から描いた作品。と言っても、単に買った負けたを描いているのでは無論なく、ハチベエの傷付いた心情、民主主義の問題、イジメの問題なども包括的に扱って、読み応えのあるドラマが展開する。俳句・和歌ではじめて、俳句・和歌で締め括るお遊びも手馴れたもの。 |
・ストーリーは、ハチベエが荒井陽子を選挙に担ぎ出してそのPRに奮闘する前半、荒井陽子の代わりにハチベエ自身が立候補して選挙を戦う後半に分かれている。 いきなりハチベエを前面に出さず、割と長い間荒井陽子の売り出しにページを割いている構成も、巧みである。 |
・学園が舞台なので、荒井陽子以外にも、新庄や榎本といったクラスの主役格のキャラが活躍するのも特徴的だ。また、ネズミという渾名をもらっている皆本章が初登場。 典型的ないじめられっこタイプだが、この後のシリーズでも、ワンポイントでたまに顔を出すことになる。もっとも25年後にはムキムキのスポーツインストラクターに変貌を遂げてしまうのだが(あくまでもハチベエの見た夢の中での話)。他にも6年1組以外の津久田など、以降継続して登場するキャラも複数初登場する。 特に、スポーツマンで勉強のできる津久田のポジションは象徴的だ。荒井陽子が候補を辞めた後のハチベエたちとのやりとりは、エリート意識剥き出しで、ハチベエの滅多に聞けない痛烈な罵言を頂戴することになる。 |
・ハイライトは無論、最後の皆本の応援演説だろう。そこでやっとハチベエの秘めていた経験が伏線として生かされる。いみじくも、那須正幹の政治的な信念……民主主義の本質が極めて具体的に訴えられていて、心に沁みるものがある。 |
・それでいて、結局選挙でハチベエが惨敗するのがいかにも三人組らしい結末。ただ、その後に一種のどんでん返しを用意して、読者の溜飲を下げているのが心憎い演出。 |
・中盤まで中心的な存在の荒井陽子と、ハチベエたちとの関係がより深まっていることも注目。また、ハカセの妹・道子の暴走ぶりも楽しい。 事前運動でのハカセの論理的な指導力、ハチベエの前線での行動力、モーちゃんの引っ込み思案など、三人の個性もくっきりと描かれているのも見所だ。 |
・もっとも、そもそも小学校の児童会長選挙に、そこまでみんなムキになるだろうかと言う根本的な疑問はある。作者としては、設定は小学校だが、実体的には中学、高校以上の自治活動として描いているつもりだったのかもしれない。 |
管理人の評価
・学園行事を扱った作品としては上位に来る。ただ、情緒的な部分での読後の感銘はやや薄い。事前運動の描写もやや長く、退屈かも。 | ランクB |